サンクトガーレン広報・中川美希が語る「クラフトビールの売り方」 職人気質の醸造元を売れるブランドに変えた思想とは

サンクトガーレン広報・中川美希が語る「クラフトビールの売り方」 職人気質の醸造元を売れるブランドに変えた思想とは

こだわり抜いた醸造と独自のスタイルで日本のクラフトビール業界をけん引するのが、神奈川県厚木市のサンクトガーレンだ。日本で小規模のビール醸造が認められた1994年の3年後、厚木市の工場からその歴史はスタート。今も社員4人という規模で製造販売を行うサンクトガーレンは、それまで馴染みのなかったエールビールを日本に広げただけでなく、チョコビールやスイーツビールなどのユニークな商品で、新しいビールのおいしさを幅広い層に発信している。

会社設立から数年の間ひとりでビールを作り続けていた代表取締役の岩本伸久さんが、2006年に迎え入れたのが広報担当の中川美希さんだ。職人気質の社長に「たくさんの人に飲んでもらうことの大切さ」を気付かせたという中川さんに、クラフトビールを売ることへの思いを聞いた。

©Katsumi Hirabayashi

社長1人のビールメーカーには発売日の概念もなかった

―― まず、中川さんの今のお仕事内容を教えてください。

中川 一言で言うと、サンクトガーレンの社外に対する活動全般です。当社は代表含めて社員が4人で、うち2人はビールを製造する業務をしていますので、私が一般的な企業広報やSNSでの情報発信のほかに、ネットショップ関連のお仕事、それに商品の企画もやっています。

―― サンクトガーレンに入社される前も、広報のお仕事をされていたんですか?

中川 はい。もともと広報の仕事をやっていて、社長に「一緒に面白いことをやろう」と誘われて2006年に入社したんです。それまでサンクトガーレンは、特に広報活動というものはしていませんでした。広報として一緒にいろいろなチャレンジをしていこうという形で加わって、それから仕事が広がっていきましたね。ネットショップも、メディアにビールを取りあげてもらううちに、お客さんから「買いたい」という問い合わせをすごくいただくようになったので、私が担当して立ち上げました。

―― ホームページなどで社長が、中川さんに多くの人にビールを飲んでもらうことの大切さを教えてもらったとおっしゃっていますが、入社した当時のサンクトガーレンの売り方にどういう課題を感じていたんですか?

中川 課題があるとまでは思っていなかったですよ(笑)。ただ、もったいないなとは感じていました。それまでは、ビールができたら売るという発想で、発売日という概念すら持っていなかったんですよ。でもメディアって、発売日がないような商品は取り上げにくいじゃないですか。売り場の商品コーナーも発売日ありきですし、もっとやり方を変えるべきだとは思いましたね。

―― 中川さんが加わって初めて作ったビールが、バレンタイン限定のチョコビール「インペリアルチョコレートスタウト」だそうですが、これはどういう経緯で開発されたのでしょうか。

中川 アルコールが高くて長時間熟成できる黒ビールを作ろうというプランはすでにあったんです。チョコレートスタウトはもともと世界的にあったビールスタイルなんですけど、バレンタインが近いから、その季節の限定ビールとして売りましょうという提案をしました。

サンクトガーレン代表取締役 岩本伸久さん

「苦いからビールは嫌い」から生まれた人気のスイーツビール

―― インペリアルチョコレートスタウトがヒットして、それから「スイーツビール」のシリーズがスタートしますよね。これも中川さんのアイデアだったんですか?

中川 そうですね。インペリアルチョコレートスタウトを買いに女性の方が売り場にたくさん来てくださったんですけど、アルコール度数が高くて作るのに時間がかかるビールなので1年中は作れないんです。だから、そういう方々にも1年を通じて飲んでもらえるビールを作ろうと、季節のフルーツなどを使ったスイーツビールのブランドを立ち上げました。

―― 中川さんの「苦いからビールは嫌い」っていう言葉がきっかけだったそうですね。この言葉にはどういう意図があったのでしょうか?

中川 当時の単純な感想です(笑)。日本では「ビール=苦い」と思われているんですけど、世界的には苦くないビールもたくさんあって、たとえばお酢のように酸っぱいビールもあるんですよ。それが知られていない状況を変えたかったんです。「苦くなくて飲みやすい」という表現はクラフトビールでもよく使われるんですけど、「苦くない」ではなくて、もっとわかりやすく「甘い」という謳い方をしたほうが興味を持ってもらえるんじゃないかなと思って、スイーツビールという表現にしました。ビールの味にも選択肢がもっとあるんだよっていうことを伝えたかったんです。

お店のほうから扱いたいと思ってもらえる活動で売る

―― ビールを売るためのアプローチとして、今はどんな取り組みをされているのでしょうか?

中川 サンクトガーレンには、営業担当がいないんですよ。どうやって売ってきたかというと、メディアやSNSで商品を見た販売店さんや飲食店さんが、取り扱いたいと声をかけてくださるんです。直取引のこともあれば、問屋さんを通すケースもあります。営業的な視点でいうと、売りやすい商品を出すということは意識していますね。たとえば、チョコビールやフルーツビールなど季節限定のアイテムも多いです。ビールを飲むシーンをイメージしてもらえるように、年末年始には、みんなが集う場で飲める一升瓶のビールの情報の発信に力を入れたりもします。自分たちが作ってみたいビールと売りやすいものとのバランスをとった商品の企画と、季節をふまえた広報活動は意識していますね。

―― 情報を見つけて自分から買ってもらえるための活動を続けて、ここまで来られたんですね。

中川 そうですね。うちのクラフトビールは要冷蔵で賞味期限も短いし、ちょっと扱いづらいんです。なので頭を下げて置いてもらっても、結局お店さんに売る気がなければ、一回置いてもらっただけで終わってしまう。でも、お店さんが自分で納得して入れたものは売れるし、その後も続くんです。だから、積極的に扱いたいと思ってもらえるお店さんを増やす活動をしていますね。

コロナ収束の願いを込めたビール「アマビエIPA」

―― 4月28日に、疫病を鎮めるという伝説のあるアマビエをモチーフにしたビール「アマビエIPA」を発売されました。新型コロナウイルス感染症拡大防止活動基金に利益を寄付されていますが、これはどういう経緯で開発したんですか?

中川 4月初旬に企画をして、突貫で作りました(笑)。コロナの影響で春夏のビールイベントの中止が決まったことをSNSで報告するとき、コロナ収束への願いを込めて、アマビエのイラストをラベルにした架空の瓶ビールの写真を投稿したんです。すると「本当に発売してほしい」という反響をいただいて。工場にはイベント用に準備していて行き場を失ったビールがありましたので、すぐに実現に向けて動きました。ラベルのイラストは、もともと作品でサンクトガーレンのビールを取り上げてくださったり、コラボビールを一緒に出したりしてつながりのあった漫画家の石川雅之先生が、趣旨に賛同して描いてくださいました。

―― アマビエIPAは、どんな味ですか?

中川 柑橘系アロマが特徴の7種類のホップを使っています。果汁は入っていないのですが、本当に柑橘類が入っているようなジューシーな味わいです。たっぷり使った小麦麦芽にオーツ麦によるボディ感と苦さもあって、アルコール度数7%で飲みごたえもあります。コロナが収束するまで製造販売しますので、ぜひ飲んでみてください!

アマビエIPA

ビールを置いてくれるお店も盛り上げたい

―― ビールを扱ってくれる販売店さんに向き合う上で、常に意識していることはありますか?

中川 ビールを売って終わりではなく、その先のお店さんでちゃんと買ってもらうというところまで気にかけています。百貨店さんやビアバーさんに出荷をすればその時点で売上は立つんですけど、売った先でお客さんが買ってくれるまで、なるべく寄り添いたいんです。たとえば、他のクラフトビールメーカーさんはあまりやってないと思うんですけど、買える店・飲める店のリストもすごく頻繁に更新しています。うちは規模が小さいからこそ、売った先の顔が見えやすいこともありますので、SNSで置いてくださっているお店さんの情報を紹介するとか、そういう広報活動を大切にしています。お取引先様がよく売れるようになれば、うちにも必然的に注文として返ってきて、売上が上がるわけなので。一緒に盛り上がっていきたいなと思っていますね。

―― カイタクタイムズは、新規開拓営業に課題を持つ方に役立つ情報を発信しているのですが、今までの経験の中でもっとも印象深い開拓の経験は何ですか?

中川 サンクトガーレンとして大きなチャレンジだったのは、2009年に発売したサッカーJ1チームの湘南ベルマーレさんのオリジナルビール「ベルマーレビール」です。Jリーグクラブ初の公式クラフトビールで、神奈川県が12年かけて開発したオレンジ「湘南ゴールド」を使っています。試合のとき、ホームの競技場のある平塚市総合公園で売られているんですが、湘南ベルマーレと対する全国各地のチームのファンが平塚で飲んでSNSなどにアップしてくれたことで、全国のサッカーファンの間で、サンクトガーレンが広く知られたんです。

―― 湘南ベルマーレのほうから、作りたいという依頼があったんですか?

中川 当社はタンク1本からオリジナルビールを受注しているんですが、それを取り上げた記事を見て一緒にやりたいと言ってくれたんです。湘南ベルマーレさんのほかにも、パークハイアット東京さんのオリジナルビールですとか、800°Degreesという新宿や青山にあるピザ屋さんのオリジナルビールなども作っています。

―― では最後に、近い将来やりたいことや、夢をお聞かせいただけますか?

中川 こんな状況なので今は進んでいないんですけど、直営のビアバーを作りたいと思っています。今まではビールを置いてくださるお店さんに売ってもらっていたわけですけど、個人のユーザーさんと直に接触できる場所を作ろうという構想が前からありました。自分たちでお客さんの反応を見ながら、それをビール作りに活かしたり、売り方を工夫したり、そういうことができるお店を作りたいですね。

サンクトガーレン公式サイトはこちら

©Katsumi Hirabayashi

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